他人の話声のこと

基本的に外に一人でいるときは、音楽を聴いている。

音楽が好きというのももちろんあるのだけれど、実のところ「他人の話声を極力聞きたくない」という積極的に後ろ向きな理由が大きい。(仕事中は別)

もちろん爆音で聞いているわけではないので、完全にさえぎることは不可能だが、それはもう仕方がない、耳を壊したいほど聞きたくないわけでないのだ。

ただほんの少し、勝手に気になって、煩わしい。

それを緩和できればいいのだ。

 

昔、おそらく私が高校生だったと思うが、その時は今ほど徹底して外出中に音楽をきいていなかった。

ある日満員電車に乗っていた際、近くにカップルがいた。夜、帰宅中で、その路線はいつでも混んでいる。カップルは満員電車の中抱き合い見つめあったのち、おもむろに彼氏が言った。

「結婚しよう。」

彼女が嬉しそうに頷いて、それからまた彼氏が言った。

「俺たち、満員電車でプロポーズした夫婦って、みんなにいわれんのかなあ……」

 

あたりまえだろ、何言ってんだこいつ。

 

これで私の大好きな映画の世界でなおかつラブコメだったら「みんな聞いたか!俺は世界で一番幸せな男だ!」などと彼氏がいい、周りの人間も「おめでとう!」「やったなこいつ!」「うらやましいよ!」「お幸せに!」なんて囃し立てる場面になるかもしれないが、残念ながらシーンは現実で、さらに言えば帰りの満員電車に乗ってる人間など軒並み疲れている。

どの人も浮かない顔をしているし、私など「満員電車でプロポーズしたのだから満員電車でプロポーズした夫婦と言われるのは当たり前じゃないか」と心の中でマジレスをしていた。

いまだ思い返しても不思議な発言である。

 

電車を降りた後も私の頭の中は先ほどのカップルと彼氏の発言でいっぱいだった。

彼はあの日プロポーズする予定だったのだろうか、そうだとしたらなぜ満員電車というシーンを選んだのだろうか、そうでなかったなら、急に満員電車のなかで気持ちがあふれたのだろうか、だとしたらずいぶんドラマチックな男じゃないか、などなど。

 

とにかく勝手に、気になって仕方がない。それは今になってもなお、気になる。

この話を思い出すたび、やはり極力、他人の話声は聞きたくないなあと、強く思うのだ。