歯医者のこと

意を決して歯医者に通うことにした。

歯医者が苦手な人は多くいるかと思われるが、私もご多聞に漏れず、苦手である。

そのため、「今の仕事場付近」+「夜遅くまでやっている」+「評判がいい歯医者」というこれが賃貸の条件だったら家賃跳ね上がりますよなどと言われてしまうような物件を探し、このたび見つけ出した次第である。

見つけたのだから、通わないと…と自分を言い聞かせ、扉のドアをあけたところまでは、よかった。

丁寧な仕草で私の口を広げる先生の「万が一痛い場合は、左手を挙げてくださいね」という優しい言葉に、「ふぁい」と間抜けな返事をし、治療は進められていく。

もちろん、治療中は麻酔をかけてくれるので痛みはない。

痛みはないのだが、そこまできてようやく、私がひさしく歯医者を嫌がっていた理由を思い出した。

感覚だ。

痛みはなくとも、歯を削っている感覚はもちろんある、音も。痛みがない分、「痛くはないけどはちゃめちゃやられている」という気持ちが強くて、余計に怖い。

そのことを思い出し、気が遠くなった。

たとえるなら盲腸の手術で痛みはないしブラインドされていて見えないけれどお腹を切られている感覚はある、みたいな感じだろうか。

そのうえ音も聞こえるし、内臓を触られている感覚もあるのだ。何に使うかわからないような器具の名前を先生が受け取り、それが当たる感覚さえある。

おそろしい……とそこまで想像していたら治療は終わっていた。

次回の予約を済ませながら、間違いなくそれよりはましだろうなと思った。